海運業界は脱炭素に向けてバイオ燃料やLNGを燃料にする船舶の導入を加速
脱炭素の一環として、海運業界では船舶から排出されるGHG(温室効果ガス)の削減が求められています。GHGだけでなく、排ガスに含まれるSox(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)は、海洋生態系にも悪影響があるとされています。
したがって、従来の重油に代わり、新しい燃料への移行が必要です。
IEA(国際エネルギー機関)は、2050年までにアンモニアや水素を船舶の燃料にするのを目標にしています。とはいうものの、直ちにアンモニアや水素を燃料に切り替えはできません。
しかし、海運業界では脱炭素の取り組みが活発化しています。
この記事では、2023年3月時点の海運業界の脱炭素の概要や事例を含めて紹介します。
海運業界の脱炭素は船と港の両方での取り組みが必要
海運業界での脱炭素の取り組みは、船舶から排出されるGHG(温室効果ガス)の削減です。
この章では、海運の脱炭素を目標にしているIEAと現状を紹介します。
- IEAは2050年にアンモニアを船の燃料にするのが目標
- 重油に代わる燃料が実用レベルに達していない
それぞれ説明します。
1. IEAは2050年にアンモニアを船の燃料にするのが目標
IEA(国際エネルギー機関)は、2050年までに海運分野でカーボンニュートラルの実現を目指し、燃料を重油からアンモニアや水素に切り替えるのを目標としています。
同機関が提供しているロードマップ「Net Zero by 2050」では2020 ~ 2050年までの燃料の転換予想が公開されています。
画像引用:P137 Net Zero by 2050 – A Roadmap for the Global Energy Sector
左から鉄道、海運、航空となっており、燃料転換の経過を予想した図です。
予想図では、2050年に船舶の主な燃料はアンモニアとなっています。国土交通省もIEAのカーボンニュートラルの目標に合わせて、脱炭素に向けた技術開発や環境整備を推奨しています。
2. 重油に代わる燃料が実用レベルに達していない
脱炭素で燃料を重油からアンモニアや水素に切り替えるのが目標とされていますが、2023年3月現在、アンモニアや水素を燃料にする船舶は実験段階です。
また、船の燃料を変えるとなれば、燃料を備蓄する港の施設や、燃料を提供するサプライヤーなども一緒に対応しないといけません。
そのため、港の設備や船に手を加えない方法が模索されています。具体的には、重油の代わりにバイオ燃料を使用する方法です。
他には、重油とLPG(液化天然ガス)の両方が使用できる二元燃料エンジンを搭載する船舶を増やしたりすれば、排気されるGHG(温室効果ガス)を減らせるでしょう。
以上のことから、バイオ燃料の実証実験や新しいエンジンを搭載した船舶の注文発表が相次いでいます。
海運業界が脱炭素を迫られるのは多方面からの圧力
海運業界が脱炭素に取り組むのは、法的な規制だけでなく、金融機関や顧客からの働きもあります。
例えば、銀行が環境に配慮したプロジェクトへの融資を優遇したり、顧客から船主や船会社に圧力をかけていたりするケースです。
しかし、船の建造には多額の費用がかかります。そのため、脱炭素を後押しする貸付制度も始まっています。
2023年3月9日、日本財団は、脱炭素の船舶を建造しようとする事業者に対して、長期・低利の貸付制度の新設を発表しました。
貸付金額は年150億円で5年間、総額750億円を予定しています。融資の申し込みは2023年5月からです。
この制度を利用すれば、LNG(液化天然ガス)などを燃料にする船舶の建造資金に充てることができます。
つまり、海運の脱炭素への取り組みは、商品価値の追求やイメージの向上ではなく、外部から圧力をかけられるような形でスタートしている場合が多いといえるでしょう。
【2023年3月時点】脱炭素に向けた取り組み事例を紹介
ここからは、脱炭素に向けた取り組みの事例を4つピックアップして紹介します。
- バイオ燃料を使用して脱炭素を目指す
- LNG(液化天然ガス)を使用した船が入港
- 使用済み食用油をバイオ燃料に使用
- メタノールを燃料にするコンテナ船の発注
それぞれ確認していきましょう。
1. バイオ燃料を使用して脱炭素を目指す
2023年3月6日、アストモスエネルギーと日本郵船は、船舶用バイオ燃料を使用した実証実験を実施。バイオ燃料のサプライチェーンの安全性を証明したと発表しました。
この実験で使用されたバイオ燃料は、既存の船舶エンジンや港湾施設のインフラに手を加えずに、そのまま利用できるのが特徴です。
実験を通じて、バイオ燃料の生産からシンガポール港までの輸送や通常燃料との混合、船舶での燃焼など新しい燃料のサプライチェーンを追跡したそうです。
今回の実験で使用されたLYCASTE PEACE(リカステ ピース)号は、2月26日に試験航行を終え、バイオ燃料の使用に関する安全性を実証しました。
2. LNG(液化天然ガス)を使用した船が入港
日本郵船は2月27日に3隻目のLNG燃料自動車専用船「Jasmine Leader(ジャスミン・リーダー)」が広島港に入港したと発表。
同船は竣工後、LNG燃料バンカリング船(燃料供給船)の「かぐや」からLNG燃料を補給して広島港に入港。同港にLNG燃料自動車専用船が入港するのは初とのことです。
3. 使用済み食用油をバイオ燃料に使用
同月21日、ONE(オーシャン・ネットワーク・エクスプレス)が運航するコンテナ船「MOL ENDOWMENT」でバイオ燃料を使った4回目の試験航行が成功したと発表しました。
この試験航行で使用されたバイオ燃料は、使用済み食用油メチルエステルと超低硫黄燃料油を混合したシェブロン社製。試験航行の結果、船舶のエンジンや燃料インフラに変更を加えず、排出されるCO2の削減ができることを実証しました。
4. メタノールを燃料にするコンテナ船の発注
韓国の大手海運会社のHMMは、メタノールを使用するエンジンを採用した9000TEU型のコンテナ船9隻を発注したと2月14日に発表。
発注は、韓国の造船会社である現代三湖重工業に7隻、HJ重工業に2隻です。
今回の発注したコンテナ船の引き渡しは2025〜26年頃に予定され、発注総額は11億2000万ドルとされています。
また、HMMは同日に燃料サプライヤーであるスイスのPromanやタイのPTTEP、イギリスのEuropean Energyなど国内外の5社とメタノール供給に関する覚書(MOU)を締結。
主要港湾でのメタノール供給に関する実現可能性と、メタノールの生産に関して協力を進めていくとしています。
船舶もカーボンニュートラルに向けて脱炭素が進む
海運の脱炭素に向けた実証実験や、新型船に関する発表が相次いでいます。
その多くは、既存の船と港湾インフラに手を加えずに脱炭素に取り組めるものだったり、新しいエンジンを搭載した船舶を導入したりと、多面的なアプローチといえます。
しかし、海運の根本的な脱炭素には、船舶と港湾、燃料サプライヤーなどを巻き込んだ大規模な取り組みが必要です。いずれは、民間と自治体、政府が歩調を合わせた一大公共事業のような脱炭素の取り組みが起きるでしょう。
◆参考サイト(公式サイトやメーカーサイト):
国際海運2050年カーボンニュートラルに向けた取組|国土交通省
https://www.mlit.go.jp/common/001480247.pdf
Net Zero by 2050 – A Roadmap for the Global Energy Sector
https://iea.blob.core.windows.net/assets/deebef5d-0c34-4539-9d0c-10b13d840027/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector_CORR.pdf
CO2削減促進に総額750億円 低・脱炭素船舶の建造資金を無利子で貸し付け | 日本財団
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2023/20230309-85847.html
LPG船でのバイオ燃料実証実験を完了 | 日本郵船株式会社
https://www.nyk.com/news/2023/20230306_01.html
当社3隻目のLNG燃料自動車専用船が広島港に初入港 | 日本郵船株式会社
https://www.nyk.com/news/2023/20230301_01.html
Shipping Gazette News – HMMがメタノール燃料の9000TEU型コンテナ船9隻を発注
https://www.hmm21.com/cms/company/engn/introduce/prcenter/news/1212163_18539.jsp
ONE brings together decarbonization and digitization in 4th successful biofuel trial | ONE
https://www.one-line.com/en/news/one-brings-together-decarbonization-and-digitization-4th-successful-biofuel-trial
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