2023年後半の貨物量で景気動向が変化|経済成長率の低下とコンテナ船運賃下落の懸念
海運業界では、2023年後半と2024年の展望に関する注目が高まっていますが、団体や企業によって異なる見解が発表されており、見通しの判断が難しい状況です。
国際通貨基金(IMF)は、2023年7月に世界経済の成長率が2023年と2024年ともに3.0%に低下するとの見通しを発表。特に先進国を中心に経済の停滞が懸念されています。
一方で、全米小売業協会(NRF)はIMFの見解とは対照的に、輸入貨物量が過去最高水準に達すると予想を発表しました。
また2023年8月時点では、北米向けコンテナ運賃は上昇傾向であることがDrewry(ドゥルーリー)社のコンテナ船運賃指標から確認されています。
しかし、海運大手Maerskは2023年後半にコンテナ需要が減少すると予想を発表しています。
このような状況から、北米地域においては2023年後半の貨物量が市況の評価に大きな影響を及ぼすと言えるでしょう。
ピークシーズンの貨物量でアメリカ市況が判断
北米地域では、ピークシーズン(8~11月)の貨物量がアメリカの市況を判断する指標となります。
クリスマスなどのホリデーシーズンの売り上げを予測し、小売業が在庫を調整して一時的に貨物量が増加するためです。
年末の消費が拡大する場合は、通常7、8月から海運の貨物量が急激に増える傾向があります。
しかし、2023年後半の貨物量が増加しない場合、北米地域の消費は低迷しているとみなされる可能性が高いです。
それに伴い、コンテナ運賃の低下だけでなく、アメリカ経済にも悪影響を及ぼすでしょう。
世界経済成長率は3%に鈍化
7月25日にIMF(国際通貨基金)は、2023年および2024年の世界経済成長率は3.0%にとどまると見通しを発表しました。
2022年の推計成長率が3.5%であるため、一段と減速する見込みです。
画像引用:Global Economy on Track but Not Yet Out of the Woods|IMF Blog
この減速の主な要因は、インフレと仕入れコストの上昇ですが、世界的なインフレは緩やかになるとの予測もあります。
具体的には、世界のインフレ率が2022年の8.7%だったのが2023年には6.8%、2024年には5.2%へと低下する見込みです。
しかし、先進国を中心にして経済成長の減速が顕著となっており、アメリカの成長率は2023年が1.8%、2024年は1.0%と予測されています。
同様に、EU圏は2023年は0.9%、2024年が1.5%と低い経済成長が見込まれています。
加えてEU圏は、ウクライナ戦争や異常気象の影響により、経済が急激に落ち込む可能性もあるそうです。
日本の成長率は、2023年が1.4%、2024年は1.0%と予想されており、他の先進国同様に経済成長が減速します。
画像引用:IMF世界経済見通し
一方で、発展途上国の経済成長は加速すると見込まれ、2022年の平均成長率が4.0%であり、2024年には4.1%に達すると予測されています。
つまり、世界経済の成長は鈍化していますが、その中で先進国の経済がより落ち込む一方、発展途上国がより強い伸びを見せることになるでしょう。
2023年8月のコンテナ運賃は上昇傾向
先月までコンテナ運賃は低下傾向にあり、景気の低迷が心配されていました。
しかし、8月に入ってからコンテナ運賃は上昇しており、市況の改善材料となっています。
イギリスの海運コンサルタント企業であるDrewry(ドゥルーリー)社が週ごとに発表するWCI(World Container Index:コンテナ船運賃指標)によれば、上昇傾向が確認できます。
画像引用:World Container Index – 17 Aug|Drewry
8月3日に発表された総合指標では、1761.33ドル/FEU(前週比11.8%増)と大幅に上昇しました。この上昇の背後には、主要なコンテナ船各社による運賃の値上げがあるとされています。
また、続く10日と17日のコンテナ船運賃指標WCIの発表でも、総合指標はそれぞれ1790.60ドル/FEU(前週比1.7%増)および1832.48ドル/FEU(前週比2.3%増)となり、主要コンテナ航路の運賃上昇傾向が持続しています。
8月4日の日経新聞によると、上海発北米向けのコンテナ運賃が約9カ月ぶりの高値を記録したと報じられました。
この高騰の理由はDrewry社と同様であり、コンテナ船各社が減便を実施し、その後に運賃を引き上げた結果とされています。
以上のことから、貨物量が急激に減少しない限り運賃は安定、微増していくでしょう。
NRFは8月の輸入貨物量を最高水準と見込む
NRF(全米小売業協会)とコンサルタント企業Hackett Associates(ハケット・アソシエイツ)は8月7日、アメリカの主要な港での小売り関連の輸入コンテナの貨物量見通しの予想を発表。
アメリカの小売業者が年末のホリデーシーズンに向けて在庫を増やすため、2023年8月の輸入貨物量が過去3番目に多くなると予想しています。
Hackett Associates社の創設者であるBen Hackett(ベン・ハケット)氏は、アメリカ国内小売業者の在庫が減れば、貨物量の増加が見込めると見解を述べています。
出典:NRF | August Cargo Volume Should be Highest Since Last Fall
7月の輸入貨物量は確定していないものの、当初の予想より下振れして191万TEUと予想されています。
そのうえで、8月の貨物量は203万TEU‘(前年同月比10.2%減)と予想されています。200万TEUに達するのは昨年10月以来です。
画像引用:NRF | August Cargo Volume Should be Highest Since Last Fall
NRFは2023年通算の貨物量は2,230万TEU(前年同期比12.8%減)と予想を出しています。
2021年や昨年に比べると量が減少しますが、それでも過去3番目の貨物量になる見通しです。
コンテナ需要の減少と運賃の下落が危惧される
北米地域の市況は悪くないと考えたいですが、デンマークの海運大手Maersk(マースク)は2023年8月4日に今年後半にコンテナ需要が低下する予想を発表しました。
同社は、コンテナ貨物の取扱量を当初、最大で2.5%の減少を予想していましたが、最大4%減少すると下方修正しています。
主な理由は、金利の上昇とユーロ圏とアメリカの潜在的な景気後退リスクとしており、世界的なマクロ経済成長が鈍化すると予想をしています。
そのため、コンテナ需要の低下により2023年後半、2024年は運賃が急激に下落する可能性があるそうです。
北米では7月頃から輸入量が増えてピークシーズンとなります。しかし、7月末にMaersk公開した「Maersk Market Update Latin America July 2023」でも貨物量が急増したという発表はされていません。
今後も貨物量に大きな変化がなく、港も混雑せずピークシーズンを終えてしまうとMaerskの予想どおりとなり、コンテナ船需要が下がり、各社は打撃を受けるでしょう。
2023年後半の荷物量によって市況が変化
まとめると、北米地域の市況は2023年後半の荷物量に大きく左右される可能性があります。
継続的な貨物量の増加が見られる場合、北米の市況は好転していると判断される可能性が高いです。
また、アメリカ国内がインフレの影響から回復しつつあるという見方もできます。
しかし、ピークシーズンであっても貨物量が増えない場合は、景気が今以上に低迷していくと判断されるでしょう。
とはいえ、ピークシーズンの終了までには、まだ時間があるため在庫の大規模な発注と貨物量の急増が起きる可能性はあります。
したがって、現時点の北米地域は、市況の分かれ目と言えるでしょう。
参考サイト
- 短期的な強靭性続く課題|IMF世界経済見通し
- The global recovery is slowing amid widening divergences among economic sectors and regions
- World Container Index – 17 Aug|Drewry
- コンテナ船運賃が反発 米西岸向け9カ月ぶり高値 – 日本経済新聞
- NRF | August Cargo Volume Should be Highest Since Last Fall<
- Maersk warns of steep container demand drop amid global slowdown
- A.P. Moller – Maersk reports robust Q2 financial results in difficult market conditions | Press Release | Maersk
- Maersk Market Update Latin America July 2023 | Maersk
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